インフルエンサーマーケティングを阻む「偽物」の存在

「インフルエンサーマーケティング」が活気づいています。

インフルエンサーマーケティングとは、SNS内の著名人(インフルエンサー)に自社製品やサービスを使ってもらい、広告効果を狙うマーケテイング手法を言います。芸能人を使ったCMとの違いは「専門性」です。特定分野に詳しく、その分野を好む層に対し、強い影響力を持つ「人」を活用します。例えば、讃岐うどんのインフルエンサーや、コンビニスイーツのインフルエンサーなど。分野を絞り込めるため、自社の狙うターゲット層へ効率よく訴求できます。

2020年の市場規模は、日本では327億円(※1)、米国では約1兆円(≒97億ドル ※2)。「インフルエンサーマーケティング」というフレーズの月間検索数は、2015年の3,900件から、2019年には70,000件に増加しました(※2)。

今後、日本も米国に追随し、市場が拡大することは間違いないでしょう。

一方、数年前から「インフルエンサー」自体に陰りが生じています。不正手段を用いてフォロワーや「いいね! 」の数を増やす、「偽」インフルエンサーの存在です。

偽インフルエンサーの目的は、「承認欲求の充足」から「利益の追求」にシフトしつつあります。彼らにとってSNSは、ビジネスの場に変わったのです。インフルエンサーマーケティングの市場規模拡大に伴い、偽インフルエンサーも増加するものと思われます。

今回は、インフルエンサーマーケティングの問題点と、導入における注意点について考察したいと思います。

偽インフルエンサーの存在

企業にインフルエンサーとして認められ、収益を得るための要素は2つ。フォロワーの「質」と「量」です。

「質」の評価は、「エンゲージメント率」という指標を用います。以下のような式で計算されます

「エンゲージメント率=(「いいね! 」数+コメント数)÷フォロワー数」

フォロワーが常に「いいね! 」してくれれば100%。つまり、この指標が大きければ大きいほど、コアなフォロワーが多い。インフルエンサーの影響度が強く、多くの人に訴求しやすい、と言えます。

「量」はインフルエンサー自身の収益に大きく影響します。

一般的に、インフルエンサーマーケティングの費用は、「フォロワー数×単価」で算出されるからです(※3)。そのため、数々の不正手段があみだされています。

オランダ制作のドキュメンタリー「#フォロー・ミー インスタの偽り」は、不正手段について詳しく解説しています。

この番組によると、不正手段は3つ。

1.フォロワーを金で買う

偽インフルエンサーになるため、「偽」フォロワーを買う。最もわかりやすい方法です。

偽フォロワーで話題になったのが、アメリカ人歌手のケイティペリーです。

ケイティペリーは、2017年6月に、フォロワー数が1億人を超えた、としてツイッター社から祝福されました。

ところが、翌年7月、ツイッター社が、偽フォロワー(フェイクアカウント)の消去作業を行ったところ、彼女のフォロワーが280万人減少。フォロワーに偽フォロワーが含まれていたのです。

この消去作業で、ジャスティンビーバーや、オバマ元大統領など著名人も、数百万人規模でフォロワーが減少した、と言われています。自身が購入したものではないかもしれません。しかし、偽フォロワーの多さが、浮き彫りになった事件でした。

フォロワーは、日本でもヤフオクなどで、今も販売されています。

(画像は2020年10月13日現在のもの)

2.フォロワーと引き換えに「自分を売る」

フォロワー販売会社から、無料で多数のフォロワーをもらう。そのかわり、SNSのアカウントとパスワードを提示する。結果、自分が知らないうちに、商品やサービス・人物に「いいね! 」をされることになります。最も「偽いいね! 」と見破られにくい方法です。

3.「いいね! 」を交換しあう

「いいね! 」しあうグループに入り、グループ内の投稿には必ず「いいね! 」をする。グループは数万人規模なので、常に多数の「いいね! 」が獲得できる。登録者はボットやプログラムを使って「いいね! 」を自動化しているため、内容をいちいち見る必要はない。

こういった手段により、フォロワーや「いいね! 」を増やす。結果「偽」インフルエンサーが誕生するわけです。

偽インフルエンサーの存在が、インフルエンサーマーケティングにおいて、最も大きな問題と言えます。

高年齢層には効果が低い

インフルエンサーマーケティングとステルスマーケテイングの違いは「告知」です。ツイッターやインスタグラムの場合、コメント欄に「#PR」など広告とわかるハッシュタグ(キーワード)を入れ、告知します。

問題は、広告とわかると「その記事を見ない」人が一定数存在することです。

広告を示すハッシュタグ等があった場合、「一切閲覧しない」層は全体で20.2% 。その比率は、年代が高くなるほど増加し、50歳以上では29.8% に達します(※4 MUFG調査)。年齢層が高くなるほど、インフルエンサーマーケティングの効果は低下するのです。

高年齢層をターゲットにする場合は、効果減を見込む必要があります。

活用には注意が必要

インフルエンサーマーケティングは、いわば「クチコミ」誘発策とも言えます。

クチコミは制御が難しい。だから「自然」に発生させる。せいぜい「誘発」しやすい仕掛けを作る程度にとどめる。これが従来の手法でした。しかし、昨今「人為的」に制御しようという傾向が強まっています。

企業が、SNS内で「自然」にインフルエンサーと接点を持つのは問題ないでしょう。しかし、「人為的」に制御するのは、自社単独ではかなり困難です。

インフルエンサーマーケティングを導入する場合は、「信頼できる」マーケティング会社に依頼することが前提です。その際

・どのような偽インフルエンサー対策を行っているか
・どのような指標値で効果を測定しているか
・ターゲット層に合ったインフルエンサーを抱えているか

などの説明を求めたうえで、検討いただきたいと思います。

中小企業診断士 関谷信之(kakanri.com)

www.kakanri.com

[ 参考 ]

※1 327億円
【市場動向調査】2020年のソーシャルメディアマーケティング市場は5,519億円、前年比107%の見通し。2025年には2020年比約2倍、1兆1,171億円規模に。|株式会社サイバー・バズ

※2 1兆円(97億ドル)
The State of Influencer Marketing 2020: Benchmark Report(Influencer Marketing Hub)

※3 「フォロワー数×単価」
単価は2円から4円、というデータがあります
ゼロから学ぶインフルエンサーマーケティング-費用の現実と相場、依頼から分析の流れ(株式会社FindModel)

※4 MUFG調査
口コミサイト・インフルエンサーマーケティングの動向整理(三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MUFG))