噛み合わない「Go to 議論」を「原価計算思考」で整理する
報道番組で、コロナに関する議論を拝見しました。
番組は「報道1930」。ゲストは、尾﨑治夫氏(東京都医師会 会長)と、国光あやの氏(自民党衆院議員)、そして、小林慶一郎氏(経済学者 感染症対策分科会メンバー )です。
医師の尾崎氏は「感染者の拡大」を憂慮。政治家の国光氏は、「死亡者数」という言葉を何度か口にしました。
番組をみていて感じたのは「話が噛み合わっていない」ということ。それもそのはず。それぞれ「モノサシ(指標)」が違うのです。尾崎氏は「感染者数」を、国光氏は「死亡者数」をモノサシとしています。
感染者数を減らすためには、移動制限や3密回避などの「感染対策」。死亡者数を抑えるためには、医療従事者確保など「医療体制強化」を行うべき。
これは製造業の、「上流工程」「下流工程」のどちらに注力するか、という論点と良く似ています。
異なるモノサシによる「噛み合わない話」を、製造業の「品質原価計算」の手法を用い、整理したいと思います。
品質原価計算とは
「甘い『設計』の製品を出荷したため、『不良品』が多発し、『クレーム』が殺到。そのクレームを、脆弱なカスタマサポートで対応している。でも返品・交換は極力抑えたい」
上流工程でケチったために、下流工程のコストが増大するパターン。メーカーにとって、望ましくない事態です。
金・手間を、上流工程である「設計」にかけるのか。それとも下流工程である、出荷後のクレーム対応や不良品対応(「外部失敗原価」といいます)にかけるのか。トレードオフの関係です。
こういった場合、メーカーは「品質原価計算」という手法を用います。どの工程に、どのくらい、お金と労力をかけるのが一番安上がりなのか、を計算するわけです。一般的には、上流工程に注力したほうが、全体のコストは安くなる、と言われています。
故障しないよう、しっかりと設計する。熟練した作業者を配置し、丁寧に製造する。結果、不良品・クレームが少ない。日本の製造業は、こうして信用度を高めてきたわけです。
書籍の出版だともっとわかりやすいですね。刷り直しするより、事前に、誤字脱字をチェックする方が安いのは当然でしょう。
議論を置き換えると
これを、上述のコロナ議論に置き換えます。
「『対策』が甘かったため、感染が拡大。治療は脆弱な『医療』体制で対応している。でも、死亡者数は抑えたい」
といったところでしょうか。
上流工程は「(感染)対策」、下流工程は「医療」となります。「対策」強化、「医療」体制増強。どちらに注力するのか。
医療関係者から悲鳴が上がっている現状、さらなる体制増強は難しい。加えて、経済学者:小林慶一郎氏の「感染者を減らすことが、経済にとっても利益がある」との発言。これらを踏まえると、「上流工程」の対策強化、ということになるのではないでしょうか。
「上流工程」と「下流工程」のバランスをどうとるか。今後の政治判断に期待したいと思います。
中小企業診断士 関谷信之(kakanri.com)