「ジョブ型」人事制度の次に来るもの

最近よく聞く「ジョブ型」という言葉。人にどんな仕事を与えるか、ではなく仕事に人を張り付ける方式のことを指します。この言葉を作ったのは、濱口桂一郎氏(労働政策研究・研修機構労働政策研究所長)とのこと。報道(※)によると、氏は、ジョブ型が「成果主義」と捉えられていることを不満に思っているようです。

本来と異なる意味で普及してしまった言葉。著名なのが「リストラ」ですね。本来、「事業再構築」(Restructuring)の意味合いだったはず。ですが、社員の首切りへ、意味するところが変わりました。この「ジョブ型」もそうなりつつあります。成果主義は、やや古臭く、マイナスイメージもあります。新しい用語を使ったほうが、企業にとって都合がいいです。

仕事に人を張り付けるとは、具体的にはどういうことか。適材適所、ということですね。元からできる人、才能ある人を、業務に割り当てる。この割り当てにより、元からできる人はますますできる人に。プロフェッショナル化していくわけです。

「ジョブ型」人事制度の次に来るもの

これが進展していくとどうなるか。従業員の個人事業主化です。2017年にタニタが導入。来年1月に電通も導入します。

他企業も追随するでしょう。理由は、教育が楽であること。そして、コストが削減できることです。

教育面は深刻です。コロナの影響で、社内教育、特にOJT(On-the-Job Training オン・ザ・ジョブ・トレーニング=職場で業務に取り組みながら行う育成)がやりづらくなっています。そもそもOJTは、「俺の背中を見ろ」的な育成手法です。オンラインでは背中は見えず、効果は薄い。社内育成をやめ、力のある個人事業主を活用する。その方が、企業にとって「魅力的」でしょう。

コスト面も大きな理由です。社会保険料の負担を回避できますし、繁閑の差に応じて発注量も調整できる。つまり、人件費を変動費化できるんです。

加えて、上述の「教育」コストがかからない。企業側は、コストを負担することなく、個人の才能や、学校で得た知識、自己啓発で獲得した技能などを利用できる。悪く言うと「ただ乗り(フリーライド)」できてしまう。法律面の問題さえクリアできれば、個人事業主化を導入する企業は増えるでしょう。

私たちにできること

「君との雇用関係を終了し、個人事業主として契約したい」

来年あたりから、そう告げられるビジネスマンが増えるかもしれません。

受ける、受けないは自分の「人生観」次第。ですが、受けるにあたっては注意が2つあります。

まず、1年分の生活費を貯金しておくこと。

「のれん分け」と称して1人会社を設立し、独立した技術者を何人も見てきました。元の職場からの発注はせいぜい数回。いわゆる「ご祝儀」です。あとは自分で頑張って。これが基本姿勢です。

当然ながら、独立直後は営業力が未熟です。この期間は自力で乗り切る必要があります。貯蓄が多いに越したことはありません。経験則ですが、生活費1年分の貯蓄があれば気持ちに余裕ができます。

もう1つは、コスト意識を持つこと。

具体的には自分の「時給」を知ることです。今抱えているローンの返済額。月々の光熱費や子供の教育費。加えて、必要な娯楽費や貯金など生きていくために必要な費用を、1か月の自分の稼働可能時間で割る。それが「原価時給」です。面倒だったら、今の年収を年の稼働時間で割った「売上時給」でもいいです。

個人事業主になると、この「時給」より低い請負時給になるはずです。下げ幅をどこまで抑えるか。スキルアップに伴い、どの程度上げていくか。今の「時給」を知らないと、価格交渉ができません。

「雇用的自営」にならないために

来年以降、雇用情勢は大きく変化する可能性があります。

財務省の税制調査会資料(※)では「雇用的自営」という言葉が使われています。相反する単語を組み合わた、、何とも奇妙な言葉ではないでしょうか。同資料の解説によると「使用従属性の高い自営業主」とのこと。使われる立場なんだけど、形としては自営業、というところでしょうか。

タニタや電通のように、しっかりと個人事業主化向けの体系構築している企業は稀です。ビジネスマンにできるのは、貯蓄とコスト意識を持つこと。そして自分自身を強化しておくことではないでしょうか。「雇用的自営」のような状況に陥らないためにも。

中小企業診断士 関谷信之(kakanri.com)

[ 参考 ]

「ジョブ型」は成果主義じゃない 広がりどうみる――名付け親・濱口桂一郎さんに聞く(朝日新聞デジタル<)

「雇用的自営」
平成27年9月3日 政府税制調査会資料
平成28年11月14日 財務省 所得税参考資料