「鬼滅の刃」でコロナを斬った「くら寿司」
くら寿司が、コロナから早い回復を見せています。
9月の前年同月対比は107.9%。前年売上を8ポイント近く超えました。
8月の記事「コロナ禍でも回復基調:スシロー・くら寿司の対コロナ戦略」でも回復基調とお伝えしましたが、今回は既存店売上での前年越え。より回復傾向が強まったと言えます。「くら寿司」が、コロナに「鬼滅の刃」で一太刀浴びせた、といったところでしょうか。
このことは、回転ずし業界のみならず、飲食業界にとって明るい「兆し」と言って良いでしょう。
一方、スシローは、6月時点ではくら寿司を上回っていたものの、9月時点の回復はやや遅れ気味です。
今回は、くら寿司とスシローの現状と今後を考察したいと思います。
現状
詳しく2社の売上状況を見てみましょう。両社ともコロナのダメージから早い回復を見せています。
9月の既存店売上の前年同月対比は、くら寿司の107.9% に対し、スシローは97.1% にとどまりました。また、客数はくら寿司97.2% に対し、スシローは90.6%。なぜ、売上・客数とも差がついたのでしょうか。
くら寿司のキャンペーン
差がついた要因は「キャンペーン」と「感染症対策」の違いです。
まず、キャンペーンからみていきましょう。
くら寿司は、6月12日に「鬼滅の刃」コラボキャンペーン(1回目)を開始。同日、平日過去最高の全店売上高を記録しました。加えて、9月4日から、規模を拡大した2回目のキャンペーンを実施しています。
「鬼滅の刃」は少年ジャンプの連載マンガを原作とする、アニメ作品です。アニメ放送は大人向けの深夜枠。つまり、子供から大人まで楽しんでいる、と言えます。また、少女漫画誌『りぼん』とコラボが実施されるなど、女性にも人気があります。老若男女問わず、ファミリーでも作品が楽しまれているのです。
今回のキャンペーンでは、「炭治郎のぶっかけうどん」「禰豆子のたっぷりベリーアイス」など、登場キャラクターに合わせた、コラボメニューを用意。イートイン限定だったこともあり、来店が促されました。
ファミリーを含む厚いファン層。コラボメニューによる来店促進。映画「鬼滅の刃」の大ヒットという「幸運」にも恵まれ、来客数が急増したものと思われます。
スシローのキャンペーン
くら寿司の「幸運」に恵まれたキャンペーンとは対照的に、スシローのキャンペーンは「不運」に見舞われました。
スシローは、5月16日に「すしで笑おう」キャンペーンを、渋谷で展開しました。
渋谷の大型ビジョンを、寿司が回転しながら流れる。時折、歌舞伎役者の坂東彦三郎さんが出現し、見栄を切る。渋谷をスシロー一色で染めた派手な演出は、「渋谷ジャック」と話題になりました。
従来、このキャンペーンは、インバウンド客に向けて、「スシローを世界に」というメッセージ発信が目的でした。コロナが無く、インバウンド客で渋谷がにぎわっていたら、大きな効果があったことでしょう。
しかし、コロナでインバウンド客が激減。キャンセルもできなかったため、急遽コンセプトを変更。「このような(コロナ禍の)状況下だからこそ、おすしを食べることで、笑顔になっていただきたい」という思いを伝えること、としました。
しかし、ブランディング効果はあったものの、集客効果は限定的でした。
C(Cleanliness:衛生)とA(Atmosphere:雰囲気)
感染症(コロナ)対策においても、両社の経営者の考え方は対照的です。
両社長は以下のように述べています。
くら寿司:田中社長
「生ものを裸で回すことに衛生上の問題があることなんて昔から分かっていた」
危機への備えが試されている(日経ビジネス電子版)
スシロー(GH):水留社長
–店内の回転レーンで、すしが外気にさらされ続けることを気にする人もいます–という問いに対し
「食品が感染経路となったという報告は一切ない。そのリスクは基本的にないと思っている」(※)
回転ずしは続く。”空いた場所”を取りに行く( 週刊東洋経済プラス)
考えに開きがあるように聞こえますが、両社とも感染症対策を万全に行っています。
大きな違いは「寿司カバー」の有無です。
くら寿司では8年前から、寿司カバー「鮮度くん」を採用しています。この「鮮度くん」は、開発に20年を要し、現在では、米国で特許を取得しています。今年の7月には、「鮮度くん」のカバーの抗菌化とともに「なんば日本橋店」に、カバー表面を殺菌する紫外線灯を設置しました。
くら寿司は、徹底した感染症対策実施により、「安心感の提供」に成功しています。
一方、スシローは寿司カバーを採用していません。スシロー(GH):水留社長は以下のように述べています。
「今の(回転ずしという)形で楽しみたいというお客様がいる限りは、われわれはそこにミートしていきたい」
回転ずしは続く。”空いた場所”を取りに行く( 週刊東洋経済プラス)
「今の形」とは、美味しそうな寿司を「目で楽しむ」ことも含めているのではないでしょうか。
上述の、「すしで笑おう」渋谷キャンペーンの公告映像では、マグロやハマチなどの握りずしが、皿に落ちてくるシーンで始まります。酢飯の上で数回弾むネタは、新鮮そのもの。とても美味しそうです。美味しそうな寿司は「魅せる」べき。だからこそ、あえてカバーは導入しない。スシローのこだわりが感じられます。
飲食店では、Q(Quality:品質)、S(Service:サービス)、C(Cleanliness:衛生)、A(atmosphere:雰囲気)の4つの要素(QSCA)を重視します。どれも顧客満足度向上には欠かせません。
この要素のうち、衛生面(安心感)を重視したのがくら寿司、雰囲気を重視したのがスシロー、と言えます。
現状、ファミリー層にとっては「安心感」がより重要だったようです。「鬼滅の刃」キャンペーンの後押しもあって、「今回は」くら寿司に軍配があがりました。
くら寿司の広報担当は以下のように述べています。
「防菌寿司カバーなどの感染症対策について周知できていたことから、顧客に安心して利用してもらえたことも大きかったのではないか」
「キャンペーンがきっかけで、外食の利用に踏み切れたという声もいただいています」
無添くら寿司”想定外”の平日最高売上を達成、「鬼滅の刃」コラボが奏功、テイクアウト需要の増加も(食品産業新聞社ニュースWEB)
回復基調は続くか
差異があるとはいえ、両社とも9月の全店売上は前年を越えています。コロナが現状のまま推移すれば、回復基調は続くものと思われます。
くら寿司のキャンペーンは現在も継続中です。10月以降も「返す刃」でコロナを斬り、売上を伸ばしていただきたいと思います。
[ 参考 ]
(※)
「食品が感染経路となったという報告は一切ない」
厚生労働省 新型コロナウイルスに関するQ&A(関連業種の方向け)