資格学校が合格者を出すほど苦境に陥る理由
コロナによる将来不安から、資格取得を考えてる方も多いのではないでしょうか。
「資格学校市場(資格取得教育訓練産業)は安定的に進展する」といった予想(※1)があります。
しかし、筆者は、これを懐疑的にとらえています。
資格学校大手:TACの個人教育分野の売上は、2年連続で減少。一方、出版事業は2年連続で増加しました。このことから、浮き彫りになるのは、学校に行かず、市販の本で勉強する。「通学」から「独学」へのシフトです。
独学者が増えているのです。
将来が不安だから資格を取りたい。でも収入は少ない。だったら、お金を使わず資格を取ろう。そう考える「独学者」が増えるのは無理もありません。資格学習者は増えるが、学校は使わない。結果、資格学校市場は縮小する可能性があります。
今回は、「独学者の増加」という脅威にさらされている、資格学校について考察したいと思います。
(本稿では、安価な通信講座を受講する学習者も含め「独学者」、TACや大原など通学とオンライン両方に対応している資格学校を「資格学校」、ユーキャンやスタディングなど、通信又はオンライン学習に特化した安価な通信講座を「オンライン通信講座」とします)
独学者の特徴
独学者には、以下のような特徴があります。
教材は、市販されているテキストを使う。オンライン通信講座を利用している場合は、付属テキストを主教材とし、補足として市販テキストを用いる。書店で買わず、メルカリなどで中古を入手することも。
情報収集は、ネットの映像やブログから行う。独学で得にくい、勉強方法や問題の解き方・学習計画の立て方などの情報を収集する。資格学校の入学説明会だけ参加し、直近試験の傾向・対策を探ることも。
学校は、部分的に使う。本試験で取りこぼした科目や、克服できない苦手分野のみ「資格学校」で単科受講する。「資格学校」の主収益源である、1年・半年など長期間パッケージ講座は受講しない。「オンライン通信講座」は、資格受験の全体像把握や、ペースメーカーとして活用する。
このように「工夫」して、徹底的に出費を減らします。資格学校にとって、魅力的な顧客ではありません。
資格学校は売上減とコスト増の二重苦に
「独学者」の増加は、資格学校にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
当然ですが、受講者数が減少します。また、価格の低い単科講座が売れ、価格の高いパッケージ講座が売れなくなる。結果、売上構成が大きく変化し、全体の売上高が減少します。
「独学者」が増える状況下で、営業を強化しても、入学するのは「独学できない人たち」です。勉強方法がわからない。マンツーマンで学習スケジュールを立ててほしい。ネット受講の操作に不安がある、など「手のかかるお客様」と言っていいでしょう。当然、サポートに人員が割かれ、コストの増加を招きます。
売上高の減少とコストの増加により、利益が圧迫されてしまう。それを招くのは独学者たちです。
「学校」が「独学」に代替される。このことが、資格学校にとって、最大の脅威なのです。
合格者が増えるほど、独学者が増える
かつては、独学による資格取得は難しいものでした。しかし、昨今は、2つの要因により、難易度が大幅に低下しています。
要因の1つ目は、合格者による情報発信です。
ネットで「資格」などキーワードで検索すると「XX士合格作戦」「1年で、XX資格を取る方法」など、合格者のブログや動画が、多く見つかります。勉強方法や、スケジュールの立て方、試験傾向など、内容も大変充実しています。合格したばかりの人たちの発信が多いため、情報が新鮮です。
従来、資格学校が「有料」で提供していたノウハウや情報。それらが、合格者によって「無料」で提供されている。
資格学校にとっては、自学の卒業生(合格者)が増えるほど、より独学しやすい環境になってしまう。なんとも皮肉な状況なのです。
オンライン通信講座の出現
要因の2つ目は、オンライン通信講座の出現・台頭です。
2020年7月に東証マザーズ上場を果たした、オンライン通信講座:スタディングは、3年連続で売上を増加させています。ユーザーサポート非対応。オンラインへの注力。これらにより実現した、資格学校の半額程度という安価な講座が、スタディングの強みです。
資格に興味はあるけど、高額な学費は払えない。完全独学に不安がある。通学時間の確保が難しい。オンライン通信講座は、そういった層の受け皿になっています。
弱点は、脆弱なサポート体制でしょう。スタディングは、講座内容に関する質問は対応していませんし、ユーキャンは質問回数に制限を設けています(※2)。
しかし、独学者にとって、このサポート不足は大きな問題ではありません。上述の「合格者からの情報」で補えるからです。オンライン通信講座+市販テキスト+ネット上の合格者ノウハウ。これらをフル活用することが、独学者の合格モデルになりつつあります。
資格学校の対策
では、資格学校はどのように対策すれば良いでしょうか。
それは「時間を売る」ことです。
独学よりも早く合格できる。学費はかかるけど、その分早く仕事に活用できる。収入増につながる。結果として資格学校の方が得。そう納得させることができる体制を整備します。
製品面では、本試験での得点獲得を重視した教材作成。学習スケジュール作成サービスなど、受講生サポートの強化を行い、短時間で合格させるカリキュラムを再構築します。
価格面では、高めの価格を設定し、オンライン通信講座との価格競争を回避します。
販促面では、短期間で合格できる体制を、徹底訴求します。営業トークやパンフレット・ウェブサイト等を大幅に変える必要があるでしょう。
これら施策により、「時間を買う」人、つまり本気で資格を取ろうと考えている人を、受講生として取り込みます。
資格学校市場への参入は熟考を
筆者が、初めて資格を取ったのは25年前。当時は、分かりやすい書籍も少なく、独学は選択肢になりませんでした。ところが、いまや書店の資格コーナーは充実。オンライン通信講座も増えつつあります。今後、ますます独学者は増えることでしょう。
教育市場は、コロナなど災害時でも需要が安定しているため、参入を検討している企業が多いことと思います。ですが、上述の通り、資格学校市場は決してブルーオーシャン(※3)ではありません。参入するのであれば、相当の覚悟が必要となるでしょう。
[備考]
※1 業種別審査事典:日本の全産業、全業種を網羅した業界情報誌
本稿では、第7巻 2020年1月発行版を利用
※2 両ウェブサイトより
スタディング:「講座内容に関するご質問への回答サービスは付属しておりません」
ユーキャン:「質問回数に制限を設けさせていただく場合があります」
※3 ブルーオーシャン=競争相手のいない未開拓の市場