「鬼滅の刃」から「情熱大陸」へ。くら寿司の新市場開拓戦略とは

くら寿司が、「ファミリー」から「大人」へ、顧客層を広げます。具体的には、仕事帰りやランチの会社員を、従来の顧客層に追加します。

「くら寿司=ファミリー層という従来のイメージから、大人も行く店というイメージにしたい」(くら寿司の田中信取締役副社長)
くら寿司 コロナ収束後を見越し都心部の出店強化、渋谷・新宿に新店舗、価格は1皿110円|食品産業新聞社ニュースWEB

そのために、新商品「大人寿司」を追加します。監修は、”魚の伝道師”上田勝彦氏。氏はTBS「情熱大陸」を始め多数のテレビ出演し、日本人が魚を食べる意味・重要性を発信しています。

「鬼滅の刃」から「情熱大陸」視聴者層へのターゲットシフト、と言っても良いでしょう。戦略としては「新市場開拓戦略」と言われるものです。

これまでファミリー向けの印象が強かったくら寿司の転換。その狙いと背景について考察します。

なぜ、顧客層を拡大するのか

ここ数ヶ月の間に、くら寿司は2つの大きなキャンペーンを実施しました。6月後半よりスタートした「鬼滅の刃 コラボキャンペーン」。そして、10月から対象となったGo to イートキャンペーンです。これは「無限くら寿司」と呼ばれ、大きな話題となりました。この2つが重複した10月売上は、前年比133% と大幅に増加。成功要因は「ファミリー層」の来店増加です。家族で楽しめる「鬼滅の刃」の魅力と、「無限くら寿司」の2人以上の予約制限による、相乗効果により大きな売上となりました。

なぜ「ファミリー」という強固な顧客層を持ちながら、さらなる拡大が必要なのか。なぜこの時期なのか。

それは、「無限くら寿司」のイメージ払拭ではないでしょうか。

11月の記事「前年売上比126%のくら寿司- 『無限』が終わるとどうなるか」において、2つの点を危惧しました。「商品価値」と「企業イメージ」の低下です。「無限くら寿司」は顧客負担が実質「0円」のケースもあり、終了後の客数減少、価格設定難は必至でした。

この戦略の短期的な狙いは、商品価値低下・客数減少への対策と推察します。

新ターゲットを獲得するために

新たな顧客層を獲得するため、くら寿司は「教科書通り」の戦略をとっているように見えます。「4P」に分解すると、以下のようになります。

・新製品(Product)「大人寿司」の追加及び、酒類メニューの拡充
・価格(Price)を、10円から20円値上げし、出店コストを転嫁
・販路(Place)として、都心駅近くへの出店拡充
・プロモーション(Promotion)として、商品監修に”魚の伝道師”上田勝彦氏を起用

これらすべて「大人」を獲得するための仕組と言えます。

以下、詳しく見ていきます。

商品とプロモーション

くら寿司によると、新商品「大人寿司」は、国産の天然魚にひと手間加えて、魚本来の旨味を引き出したもの、とのこと。監修するのは、上述の”魚の伝道師”、上田勝彦氏です。

大学時代に漁師に弟子入り。卒業後に水産庁キャリア官僚。2015年に55歳で退職して以降、食文化の復興に全国を飛びっている人物です。講習では、「塩を打つこと」「焼くこと」による、肉質変化や調味効果を実演しながら教えています。家庭でも再現しやすい、と好評です。

公開されている「大人寿司」の商品ラインナップに、その片鱗が示されています。

皮を炙るとともに、ゆず胡椒をトッピングし香りと旨味を引き出した「瀬戸内ボラの炙り」。身の締まりがよくあっさりした味わいの天然ハマチを使用した「はまちの胡麻醤油漬け」。

寿司の王道である魚本来の味を主役とした、大人向けの商品、というところでしょうか。

”魚の伝道師”が商品監修するというプロモーション効果と相まって、「大人感」の訴求が期待できます。

都心への販路拡大

くら寿司は、都心部への出店を強化します。

「昼夜を問わず多くの人が行き交う巨大ターミナルに出店し、これまでと違う客層にアプローチしたい」田中信副社長
くら寿司、都心出店加速 一部で1皿10円値上げ(日本経済新聞)

来年1月に、東京の渋谷、新宿に出店。会社員のランチや仕事帰り利用を狙ったものです。

コロナの影響により、都心部の店舗に空きが出てきたことが背景です。コロナ禍で空いた店舗を狙う。これはスシローと同戦略てす。

スシローグローバルホールディングスの水留浩一社長は以下のように述べています。

例えば、都心のビルでは大型の居酒屋が退店している。(中略)いい場所を持っていたところが、そこを空けるのであればそこを取りに行く。店舗開発のチームには「普段でもとれる物件ではなく、今しか取れない物件を探せ」と指示している。足元では、実際にそういう物件が出始めている。
回転ずしは続く。”空いた場所”を取りに行く(週刊東洋経済プラス)

コロナという脅威。これを機会として捉える逞しさは、両社共通のようです。

アフター「無限くら寿司」を乗り越えられるか

くら寿司の11月の売上前年同月比は、141.2%(速報値)と、前月136%をさらに上回りました。

とはいえ、今月以降「無限くら寿司」の反動による売上減も危惧されます。今回打ち出した戦略でどれだけカバーできるか。注目です。

[参考]

コロナ収束後の社会を見越した”Beyond コロナ”への新戦略、第26期くら寿司事業戦略発表|くら寿司のプレスリリース(共同通信PRワイヤー)