営業損失24億円。ミニストップはソフトクリームで起死回生できるか。
ミニストップの状況が芳しくありません。
粗利益率は、70%(2018)→68%(2019)→65%(2020年2月)と低下傾向が続き、2020年度2月期の営業利益では24億円の赤字を計上しました。
対策として自社の「シンボル的商品」ソフトクリームの事業化を打ち出しています。
ミニストップ、ソフトクリーム専門店の出店を開始、早期に100店舗目指す ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
はたして新規事業が起死回生策となるのか。考察してみたいと思います。
ミニストップのソフトクリームとは
ミニストップのソフトクリームとはどのようなものなのでしょうか。
一言で言うと「お手頃価格で美味しいソフトクリーム」です。
筆者は年に数回ソフトクリームを食べにミニストップに足を運びます。今は期間限定の「静岡クラウンメロンソフト」味。さっぱりとしたメロンと濃厚なクリームの掛け合いが絶妙です。ソフトクリームの味は定期的に変更されるため、SNSで話題になることも。250円前後の手頃な価格と相まって一定の人気が維持されています。
ミニストップの店舗コンセプトは、ファーストフードとコンビニが一体化した「コンボストア」と呼ばれるもの。ソフトクリームは1980年の開店当初から扱っています。
今でこそ主力商品のソフトクリームですが、当初は全く売れませんでした。そこでいくつかの対策を実施します。コーン形状の変更。複数タンク機器の導入。ソフトクリーム技術試験の実施など。売れるきっかけは、乳原料の配合率の変更でした。濃厚な味が好まれ、爆発的にヒットします。開店から11年を経て、ソフトクリームはミニストップの「シンボル的商品」になりました。また、ハロハロなどソフトクリーム派生商品の開発で、スイーツ商品の開発力も向上しました。
ミニストップは、
「お手頃価格で美味しいというブランド力」
「蓄積したノウハウ」
「ソフトクリーム派生商品の開発力」
「長期間製品を育てる”企業風土”」
などの強みを持っている、と言えます。
2つの新規事業
次に事業内容を具体的に見ていきたいと思います。
ミニストップの2020年2月期決算説明会資料によると、ソフトクリーム事業は2つ。
1つはライセンス事業です。
第三者に、商標等の使用許諾を与え、メニュー提案・原材料供給を行い、「従来の」ミニストップのソフトクリームを販売してもらうものです。直接投資を行わないため、ローリスク・ローリターンと言えます。戦略としては、同一商品を新市場に提供する「新市場開拓戦略」に該当します。強みであるブランド力とノウハウが活用できるでしょう。
2つ目は新ブランド「ミニソフ(MINISOF)」の店舗展開です。
商品アイテムは20種程度、価格帯は360~570円とやや高価格帯、つまり上述のミニストップのソフトクリームとは「異なる」商品を、専門店を出店し販売する事業です。新製品を新市場に提供する「多角化戦略」に該当します。
一般的に多角化の目的は、資源活用・リスク分散・収益向上です。ミニソフではノウハウや商品開発力など強みを活用した、収益向上が目的でしょう。
現在7店舗が出店済み。都市部に100店舗の出店を計画しています。
さて、このミニソフ。成功させるのは簡単ではなさそうです。
中途半端な立ち位置
理由は、強力な競合が多数存在するためです。
ソフトクリームは、テイクアウトができないためその場で食べる商品です。
そのため、出店先の多くはフードコート(やショッピングモールなど)になると思われます。
筆者の近隣のフードコートでは、ソフトクリームを提供する店はポッポとマクドナルドの2つ。サーティワンも含めると競合は3つになります。意外とソフトクリームなどのコールドスイーツ を提供する店は多いのです。
価格帯はポッポ・マクドナルドは150~200円、サーティワンは380~720円。一方ミニソフは360~570円。
ミニストップのソフトクリームのブランドイメージは
「お手頃価格で美味しいソフトクリーム」です。そのイメージを継承しているミニソフは、
・ブランドではサーティワンに
・価格ではマクドナルドやポッポに
負けてしまう。
つまり、どっちつかずの中途半端な立ち位置なのです。
現状のブランドイメージでは、競合への対抗は難しいでしょう。
対抗策
では、どのように対抗していけば良いでしょうか。以下考察していきます。
1.ブランドイメージの強化
現在のブランドイメージを
「北海道産牛乳と生クリーム・練乳を贅沢に使ったコクのある味わい」
「ソフトクリームの実技試験実施による、熟練したノウハウ」
など、高品質イメージへ移行する必要があります。そのためにはプロモーションが重要です。
現状、ミニソフのプロモーションは目立っていません。ミニストップ店舗での告知やツイッターの公式アカウントも見当たりません。費用対効果の高い販促経路を活用し、ソフトクリームとしての強みを訴求する必要があります。
2.競合の回避
上述のブランドイメージを獲得するまでは、サーティワン等近い価格帯の店舗との競合を回避します。親会社であるイオンのネットワークを活用し、競合が少なく有利な場所に出店します。
3.差別化方法の模索
イオンモール京都五条では、サーティワンと同フロアに出店しています。ここを、競合影響・客数・客単価等の調査モデルとして活用し、差別化方法を模索します。
4.継続性の確保
商品アイテムの追加、顧客の嗜好変化に合わせた新商品開発を行い「飽き」を防ぎます。
黒字化にどの程度貢献できるか
ミニソフは損失改善にあたってどのような位置づけなのでしょうか。
ミニストップは上述の営業損失24億円の改善策として、ミニソフ含む「構造改革」による8億円の改善を見込んでいます。ミニソフの営業利益を試算(*1)すると、年間約0.7~1億円程度。貢献度は大きくありません。当然ですが、新規事業以外の構造改革を進める必要があります。
利益貢献よりも、「シンボル的商品」のブランド化による、ミニストップ全体のイメージ向上や、従業員の士気向上効果の方が大きいのではないでしょか。
ミニストップ最大の強みとは
7月3日はソフトクリームの日です。少し早いですが、筆者も横浜ミニソフでワッフルソフトクリームを食べてきました。コクがあり想像通りのおいしさです。
ミニストップには、長い時間をかけ製品を育てる”企業風土”があります。
いまどきの企業にはない「強み」です。
この美味しいソフトクリームをじっくり育てて欲しいと思います。
[備考 ]
*1 サーティワンをモデルに試算
[参考資料]
ミニストップ株式会社 2020年2月期決算関連資料等
ミニストップが“おいしい”7つの理由 (ダイヤモンド社 島内 晴美/著 )
B-R サーティワン アイスクリーム株式会社2019年12月期 決算資料等
なぜミニストップのソフトクリームは真似されないのか ITmediaBusinessOnline
他