ミニマリスト企業:トヨタが備蓄しているもの
地震、台風、そしてコロナ。災害が発生する都度気になるのが備蓄です。今回見直した人も多いのではないでしょうか。
一方、それら備蓄を全く持たない人たちがいます。ミニマリストと呼ばれる人たちです。
彼らは備蓄どころかモノをほとんど所有しません。一方、 ミニマリストと対照的に、備蓄やモノを大量に持ち「いざという時」に備えるプレッパーと呼ばれる人たちもいます。
トヨタやアップルをミニマリストにみたてプレッパーと対比し、アフターコロナを論じた記事が掲載されていました。
アフターコロナ」社会はどうなる? 「ミニマリスト」から「プレッパー」の時代へ(文春オンライン )
簡単にまとめると
- ミニマリストは、必要になったものを自分の近くで入手できるため、手元にモノを置かない
- それは流通システムなどテクノロジーが機能していることが前提である
- 今後はコロナなどによりモノの供給が滞る可能性が高い
- コロナ以降はミニマリズム(ミニマリスト)からマキシマリズム(プレッパー)の時代へ移行する
というものです。大変示唆に富んた内容です。ぜひご覧いただければと思います。
コロナ禍のミニマリスト
では実際にミニマリストたちはこのコロナ禍どう過ごしたのでしょうか?ミニマリストの方のYoutubeを覗かせていただきました。
流通が機能していたため、さほど生活に変化はなく、快適に過ごしているようにみえます。
とはいえ、さすがにこのコロナ禍、いくつかのモノを購入しています。
印象に残ったのは炊飯器でした。一食分のみを炊く超小型のものですが、意味合いは小さくありません。
上述の記事によるとミニマリストは
「キッチンは近所のスーパーやコンビニであり、ダイニングは常連のカフェや食堂」
とあります。自炊を行わない人もいるようです。
ところが、今回の炊飯器購入は「外食から自炊」へのシフト、製造業でいうと「外注から内製化」への大転換です。 コロナ禍の暫定措置とはいえ大きな決断だったのではないでしょうか。
上記記事ではミニマリスト企業としてトヨタが例示されていました。
ではトヨタは、実際にコロナ禍で、在庫の増加や内製化を検討したのでしょうか?
ミニマリスト企業 トヨタ
当然ですが、トヨタが在庫増や内製化等に踏み切った言う報道はありません。
トヨタはジャストインタイムという生産方式を導入しています。
大雑把にいうと
通常の製造業が「部材を買う→作る→売る」流れであるのに対し
ジャストインタイムは「売れた→作るために部材を買う」 流れです。
当然在庫は最小化されます。
トヨタには、製造にかかわる以下の7つのムダ を表した「かざってとうふ」という言葉があります。
か=加工のムダ
ざ=在庫のムダ
つ=作りすぎのムダ
て=手待ちのムダ
と=動作のムダ
う=運搬のムダ
ふ=不良品のムダ
「在庫はムダ」と考えられているのです。そのため、必要な時に必要な部材を調達できる強力なサプライチェーンを構築しています。まさに製造業のミニマリストといえるでしょう。
そんなミニマリスト企業トヨタが備蓄し、増やし続けているもの。
それは「内部留保*」つまりキャッシュです。
プレッパー企業 トヨタ
「備蓄」を「いざというときに最も必要なもの」と考えると、我々にとっては水や食料、企業にとってはキャッシュということになります。
そのキャッシュ=内部留保をトヨタは
19兆円(2018年3月期)
22兆円(2019年3月期)
23兆円(2020年3月期)
と、年々増やしています。
日産の4兆円(2020年3月期)、ホンダの8兆円(2019年12月期)と比べても段違いです。 比率(内部留保/総資本)でも44%と、日産の24%、ホンダの39%を大きく引き離しています。
つまり、内部留保だけでいえばトヨタはとてつもない「プレッパー」企業と言えます。
しかし、 コロナ蔓延以前この巨額内部留保は「もっと賃金や投資に回すべき」などと批判の対象でした。 あわせて「資産課税」の議論も沸き起こりました。
所得や消費を課税対象とするフロー課税(所得税、法人税、消費税など)ではなく、不動産や金融資産を課税対象にするストック課税にしなければ、立ち行かなくなる。私はこのことを口を酸っぱくして言ってきた 。(大前研一のニュース時評 )
ところがそれらの批判・議論も今回のコロナで鎮静化されてしまったようです。多くの企業(特に飲食店など)がキャッシュ不足で苦境に陥っている状況をみるとやむを得ないでしょう。
とはいえ、内部留保がこのままでは景気は停滞する一方です。また、このコロナ禍で格差が広がりつつあります。
「いざというときのキャッシュ備蓄」をどの程度「ミニマル」にするのか。 議論できるようになるのは、もう少しコロナが落ち着いてからなのかもしれません。
(*内部留保は引き算(総資本-負債-資本金など)で計算結果として算出されます。厳密にはキャッシュとは異なりますが、国会等の議論では現金と同様に扱われているため、本記事でも同様の扱いとします)