「品質」と「価格」だけのアウトソーシングが失敗する理由

前々回の記事「月平均受注額5千円 クラウドソーシングの世界」を読んだ知人が、自社の話をしてくれました。

知人の会社でも、クラウドソーシングを検討したものの、結局とりやめたとのこと。品質が高く価格も安い。にもかかわらず発注しなかった。なせでしょうか。

前回前々回は、クラウドソーシングを、「受注者」側の視点で考察しました。今回は、クラウドソーシング含めアウトソーシングを、「発注者」と、「クラウドソーシング台頭で悩む企業」の視点で、考察したいと思います。

品質と価格だけでは「不安」

知人の会社は、資格学校です。生徒に配るための教材を作成しています。検討した、クラウドソーシングへの発注内容は、教材の一部修正(構成・校閲など)でした。

上述のとおり、品質・価格とも申し分なかったそうです。では、なぜ発注しなかったのか。

理由は「納期を守れる保証が無いから」です。

モノづくりにおいては、「QCD」(Quality:品質、Cost:価格、Delivery:納期・納品量)の3点を考慮すべき、と言われています。

上述のケースに当てはめると

Q: 品質 〇
C: 価格 〇
D: 納期 ×

つまり、QCDの「D=納期」に不安があったわけです。

今回のテキストは講座で使うもの。既に日程は決まっている。事前に講師に教材を渡し、予習してもらう必要がある。「お尻」が決まっているので、絶対に遅れるわけにいかないのです。

万一、クラウドソーシングの所属フリーランスが、体調不良等の理由で「仕事ができない」と言い出したらどうなるか。クラウドソーシング会社の説明によると、そういった場合、料金は発生しない、とのこと。しかし、知人は、それだけでは済まされないのです。早急に人を探さなければなりません。

「精神的に落ち着かないんだよ」と知人。

クラウドソーシングに限らず、新しい取引先に発注できるのは、日程に余裕がある場合のみです。

受注減に悩む企業は「当たり前のこと」を強みに

納期を守る。「当たり前のこと」です。しかし、この「当たり前のこと」を、高い確率で履行できる。複数の作業者を擁し、納期や納品量・不具合への対応を担保できる体制がある。こういった組織力は「強み」になり得ます。

安価なクラウドソーシングの台頭により、受注減に悩む中小企業は、この「当たり前のこと」を強みとして訴求し、差別化すべきです。

経営者は「価格以外」も留意する

なにかというと「外注に出せばいい」という社長さんがいます。たいてい「取引コスト」を考慮していません。

取引コストとは、取引相手を探すためのコスト、作業内容を伝えるコスト、契約を締結するためのコスト、などを足し合わせたものを言います。

指示しても、担当者がなかなか外注を使わない。その理由は、取引コストが原因であることが少なくありません。外注を探す。作業内容を教える。納品物をチェックする。だったら、自分でやった方が早い。そう考える担当者は多いものです。強引に外注を使うと、かえって時間がかかり、本末転倒になるので注意が必要です。

忙しいと、安易に外注しがち。業績が悪化すると、「価格に」目が行きがち。まず、取引コストを考慮し、社内で対応するか、外注するか検討する。外注するのであれば、QCDなど「価格」以外の要素も、考慮する。多面的に考たうえで、社外のリソースを活用いただきたいと思います。