月平均受注額5千円 クラウドソーシングの世界-1
クラウドソーシングを活用した副業が増えつつあるようです。
新型コロナで1割が副業を開始、内容は「フリマアプリ」「投資」「クラウドソーシング」(BCN+R 2020/08/27)
筆者は、10年ほど前、あるクラウドソーシング会社で「コンペ形式」の発注に、参加したことがあります。
コンペ形式とは、依頼者(発注者)が概要を提示し、受注したいフリーランス達が参加提案する。依頼者は、気に入った提案を採用し報酬を支払う、というもの。採用されなかったフリーランスには、(基本的に)報酬はありません。
当時、筆者はブランディングの一環として、ロゴデザインを請負うことがありました。クラウドソーシングが珍しかったこと、「コンペ」という気軽な参加方法だったことから、一度試してみようと思ったのです。
参加したのは、ある士業事務所のロゴデザインの案件でした。依頼者側の要望は「色は青、事務所の名前をモチーフにデザインしてほしい」といったあっさりしたもの。
報酬金額は5万円。安めです。クラウドソーシング会社の手数料が、20%~30%程度だったかと記憶しています。その分引かれるので、採用されても、手元に入るのは4万円。アイデア出しと描画で、8時間ぐらいかかったのではないでしょうか。
報酬の安さにも驚きましたが、さらに驚いたのは参加人数の多さでした。
「82人」
これが最終的な参加人数です。「82人」で4万円を奪い合うことに。14日間の募集・審査期間を経て、「1人」が選ばれ、「81人」は不採用になりました。筆者もそこに含まれています。自分のロゴが不採用だったことより、81人分の作業時間がムダになったことが衝撃でした。
人時売上高という指標があります。従業員1時間あたりの売上高です。仮に、自分が会社の経営者で、この仕事に従業員を投入した場合、
82人×8時間=656時間
40,000円÷656時間=約61円
人時売上高は「61円」。当然、会社の受注としては成立しません。
多少改善されたと言われているものの、現在でも、クラウドソーシングの報酬の安さは「課題」とされています。そのような中、「副業」目的の参加者が増加したらどうなるか。もとよりレッドオーシャンだった、コンペ形式の、さらなる競争激化は避けられません。
今回はクラウドソーシング、特に上述の「コンペ形式」について考察します。増えつつある副業の受け皿となり得るのか。デザイナーは、どのようにクラウドソーシングを活用すべきなのか。考えてみたいと思います。
月平均受注額「5千円」の世界
クラウドソーシングの現状についてみてみましょう。
まず発注額から。クラウドソーシング会社の、ロゴデザイン募集ページでは、「2万円から」といったコピーが目立ちます。発注実績をみても、3万円や2万円など、安価な案件が多いようです。発注額は低い、といえるでしょう。
つぎに、会員数をみてみましょう。
クラウドソーシング大手:ランサーズの発表によると、コロナに伴う需要増で登録者が、前年比158%に増加。また、同じくクラウドソーシング大手:クラウドワークスの会員数は、2018年の時点で200万人を突破。クラウドソーシングの利用者は、急増しています。
利用者の増加は、コンペの参加者が増えるということ。競争がさらに激化することを意味します。
ここで、コンペに勝つの難しさの例として、2020年8月のデザイナー2名の実績を見てみましょう。
あるクラウドソーシングに、デザイナーとして登録しているA氏。これまでに、800件弱のロゴ採用実績があります。2020年8月の提案数は74件。うち採用されたのは3件でした。採用率は「4.05%」です。
同クラウドソーシングに、グラフィックデザイナーとして登録しているB氏。これまでに、600件程度のロゴ採用実績があります。同月の提案数は247件。うち採用件数は23件。採用率は「9.3%」です。
2人とも、クラウドソーシング内の評価ランキングが高く、ベテランです。デザイン・品質も非常に高い。それでも、提案したロゴのうち、「4~10%弱」程度しか採用されない。それ以外の、90%以上の作業時間が収入に結びつかない。クラウドソーシングのコンペの過酷さを物語っています。
少し古いデータですが、中小企業白書2014年版に、クラウドソーシングの調査・分析が記載されています。これによると、平均受注月額「5千円未満」の利用者が、非事業者「67.5%」、事業者「28.9%」、と最も多くを占めています。ここで注目すべきは「事業者 28.9%」でしょう。同白書によると「事業者とは、法人又は個人事業者」とあります。つまり「プロ」です。「5千円未満」しか稼げていないプロが最も多いのです。
安価な発注額。激しい競争。結果、少ない報酬。これがクラウドソーシング最大の問題点です。
では、デザイナーはどのようにクラウドソーシングを利用すべきでしょうか。